支払督促
債権回収(支払督促)
債権回収方法としては、「通常訴訟」・「小額訴訟」・「民事調停」・「即決和解」・「公正証書」・「支払督促」があります。
通常訴訟は、債権者が債権の存在自体を争っている場合に利用されます。
小額訴訟は、60万円以下の少額債権を回収する場合の訴訟です。簡易裁判所で行われる簡単な制度です。
民事調停は、裁判所を利用する点では訴訟と同じですが、債務者と任意に協議を行うもので強制力はありませんが、双方が同意した場合は判決と同様の効果があります。
即決和解は、専ら不動産取引に関して、債務者と合意が出来た場合に簡易裁判所で和解手続をする制度です。
公正証書は、執行受諾文言が付いていれば、判決を得なくても強制施行ができます。
以下、支払督促を説明します。
支払督促とは
支払督促は、債権者からの申立てに基づいて、原則として、債務者の住所を管轄する簡易裁判所の書記官が、債務者に対して金銭等の支払を命じる制度です。(民事訴訟法第382条以下)
債権者と債務者の間で、債務の存在や内容に争いが無く、ただ支払が滞っているような場合に効果があります。
尚、支払督促は公示送達の制度は適用されず、債務者が所在不明の場合はできません。
内容証明による督促も、債権者の強い意思を相手に伝えますが、支払督促は裁判所を利用するだけに債権者の覚悟の程がより強く相手に伝わり、相当のプレッシャーを与えます。
但し、相手方が債権の存在・債権額・支払期限などに異議を申し立て、督促に応じない場合は、通常の訴訟手続きに移行します。
従って、債権者もそれなりの覚悟が必要です。
管轄裁判所
小額訴訟の対象は60万円以下の金銭債権ですが、支払督促の制度には限度額が無いため、10万円でも1億円でも利用できます。
申立ての窓口は、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所です。
債務者と連帯保証を同時に申立てることもできます。
但し、住所が異なる場合は、それぞれの簡易裁判所に個別に申し立てねばなりません。
法人の場合は、主たる事業所である本社・支店を管轄する簡易裁判所となります。
直接の取引先が本社から離れた事業所の場合は、その事業所を管轄する簡易裁判所にも申立が可能です。
支払督促の対象となる債権
支払督促の対象となる請求原因が適法な債権は、「金銭その他の代替物又は有価証券の一定数量の給付請求権」ですが、実務上のほとんどは金銭債権です。
次の場合が対象となります。
- 支払期日の到来した金銭債権、又は期限利益を喪失した金銭債権
- 請求原因が適法であること
次の場合は公序良俗に反するため、却下されます。
- 愛人契約に基づく金銭贈与約束の不履行に対する請求
- 賭博の借金の回収
- 利息制限法に定める法定利率の上限を超過した金銭債権
支払督促申立書
支払督促の申立は、簡易裁判所の書記官に申立書及び添付書類を提出することからスタートしますが、提出された書類審査のみです。
申立書(A4版)の用紙は、各簡易裁判所に常備されています。
申立書は、
- 支払督促申立書(表題部分)
- 別紙(当事者目録)
- 別紙(請求の趣旨及び原因)
を1セットとして、2通作成して提出します。
- 1通は債務者に郵送されます。
- 1通は、簡易裁判所が支払督促の決定書の作成に使用します。
尚、この申立書は、その後の「仮執行宣言付支払督促の決定」正本の作成にも必要なため、用意しておきましょう。
申立の際の添付資料として
- 債権者又は債務者が法人の場合は、法人登記事項証明書
- 当事者が個人の場合は、戸籍謄本
- 代理人に委任する場合は、弁護士の訴訟委任状
が必要です。
代理人(参考〜使者を活用)
支払督促の申立は、申請書類の作成と提出だけで済むため、本人が忙しく対応できない場合は、代理人が行うこともできます。
この場合、通常訴訟に移行する場合もあるので訴訟代理となり、原則、弁護士でなければなれません。
しかし、代理人でなく、一般的には本人に代わって「使者」を立てることもできます。
使者とは、本人の意思表示を伝達する者のことで、代理人とは異なります。
本人が既に出来上がった必要書類と印鑑を渡して本人の名義で申立させるのです。実際には、この方法が多用されています。
但し、異議申し立てされ、訴訟手続きに移行すれば訴訟代理人(弁護士)が必要です。
「仮執行宣言」の付いた支払督促の効果
支払督促だけでは、執行力はありません。
簡易裁判所の仮執行宣言が付いて初めて執行力が生じ、強制執行が可能となります。
仮執行宣言が付けば、その後、債務者が所在不明となった場合は、公示送達もできます。
(申立期間)
仮執行宣言の申立は、支払督促(正本)が、債務者に送達された日の翌日から2週間経過すればできます。
債務者は、異議がある場合は、この2週間以内に異議申立をしなければなりません。
一方、債権者は、2週間経過した日の翌日から30日を経過すると仮執行宣言の申立ができません。
例えば、債務者への支払督促正本の送達日が4月1日であれば、仮執行宣言の申立ができるのは、4月16日〜5月15日の間となります。
仮執行宣言付支払督促の送達
仮執行宣言の申立が受理され、審査の結果、仮執行宣言付支払督促が発付されると、裁判所に保管されている支払督促の原本に仮執行の宣言文が付与され、この段階で執行力が生じ、簡易裁判所は、債権者と債務者の双方に仮執行宣言付支払督促の正本が送達します。
この送達が到着すれば、債権者は、強制執行にむけた戦闘体制が完了となります。
債務者が所在不明となった場合は、公示送達が可能です。
強制執行
強制執行の申立には、手続上は
- 債務名義〜確定判決等
- 執行文〜(仮執行宣言付支払督促の場合は不要)
- 送達証明書
が必要です。
債務名義
裁判所に強制的な手続を取ってもらうには、裁判所等の公的な機関が強制的な手続をとっても構いませんとお墨付きを与えた書類(これを債務名義といいます)が必要です。
債務名義とは,強制執行によって実現されることが予定される請求権の存在、範囲、債権者、債務者を表示した公の文書のことです。
民事執行法22条は、次のとおり債務名義が列挙されています。
執行文の付与
強制執行するためには、債務名義のほか、原則として執行文が必要です。
但し、「仮執行宣言付支払督促」は、執行文は不要です。
執行文とは、債務名義に記載されている債権が、その段階で執行可能であることを公式に証明した文言を言います。
たとえば、
- その債務が脅迫によるものであることが判明した場合
- 債務名義上の債務者が死亡していたような場合
は、そのまま強制執行させる訳には行きません。
こうした問題が無いことを確認して執行文が付与されるのです。
具体的には、債務名義の正本末尾あるいは別紙に
「債権者は債務者に対して、この債務名義により強制執行をすることができる。」
という文言が付けられるのです。
仮執行宣言付支払督促は、既に債務者に対して支払督促の送達もされ、異議申立の機会も与えられているから不要です。
しかし、相続・合併等で債務名義上の記載が異なった場合は「承継執行文」をつけてもらいます。
送達証明
債務名義があっても、債務者が既に債権者の口座に金額を振込み、借金を完済しているかも判りません。
そのため、債務者に弁明の機会を与える必要があり、そのため最終確認として仮執行宣言付支払督促が送達されるのです。
債務者に仮執行宣言付支払督促が送達されたことを証明する文書が送達証明です。
裁判所書記官に申請して交付を受けます。
督促異議の申立
債権者が仮執行宣言の申立がなされる前であれば、債務者は異議申立ができます。
仮執行宣言付支払督促の送達日から2週間経過すると支払督促は確定しますから、この2週間以内でないと異議申立はできません。
申立先は、支払督促を発布した書記官が所属する簡易裁判所です。
異議申立の時点で、通常の訴訟に移行します。
支払督促申立書サンプル
支払督促申立書(貸金請求)
支払督促申立書
貸金請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
請求の趣旨及び原因 別紙請求の趣旨及び原因記載のとおり
債務者 は 債権者に対し、請求の趣旨記載の金額を支払え、との支払督促を求める。
申立手続費用 金4500円(内訳は以下のとおり)
申立手数料(印紙) 2500円
支払督促発付通知費用 120円
申立書作成及び提出費用 800円
資格証明手数料 円
支払督促正本送達費用(郵便切手) 1080円
平成20年8月1日
住所 〒732-0009
広島市東区戸坂千足1丁目21−13
TEL 082-220-5083 FAX 082-220-5083
申立人(債権者)鈴木 一郎 ㊞
送達場所及び債権者との関係 上記のとおり TEL FAX 送達受取人 鈴木 一郎(債権者本人)
広島簡易裁判所 裁判所書記官 殿
価 額 405,000円
貼用印紙 2,500円
郵便切手 1,200円
葉 書 1枚
添付書類
別紙「当事者目録」
当事者目録
住所 〒732-0009 広島市東区戸坂千足1丁目21−13
TEL 082-220-5083
FAX 082-220-5083
債 権 者 鈴 木 一 郎
(送達場所)上記のとおり TEL FAX (送達受取人)上記のとおり
住所 〒732-0009 広島市東区山賊1丁目20−24
TEL 082-220-6666
FAX 082-220-3333
債 務 者 悪 徳 小太郎
別紙「請求の趣旨及び原因」
請求の趣旨及び原因
請求の趣旨
1.金405,000円(下記請求の原因2の残額)
2.上記金額に対する支払督促送達の日の翌日から完済まで年5% の割合による遅延損害金
3.金4,500円(申立手続費用)
請求の原因
1(1)賃貸借契約日 平成18年5月5日
(2)目的物 広島市東区戸坂千足3丁目2番1号
戸坂フローレンスマンション211号室
(3)賃料 月額100,000円
管理費 月額 30,000円
共益費 月額 5,000円
(4)支払方法 毎月末日限り翌月分払い
(5)賃貸借契約期間 平成18年5月5日〜平成20年5月5日
2.
未払賃料の額 | 支払済の額 | 残額 |
---|---|---|
405,000円(平成19年8月分〜平成19年10月分) | 0円(最後に支払った日、平成19年10月分) | 405,000円 |
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